
神様に会った良太の二度目の夢だった。
神様は大木の根元でぼんやり空を眺めていた。
「神様、暇そうだね」
「何だ、またお前か。暇なお前に暇だろうなんて言われたかないねえ」
「僕は暇じゃないよ。夕べも遅くまでバイトをして、今度の日曜美佐
ちゃんとデートだもん」
「あんな女の子のどこがいいの」
「あんな子で悪かったね。神様は彼女がいないんだろ。だから焼いてる
んだ」
「何だい。彼女ってのは焼いて作るのかい」
「いいからさ、神様も彼女を見つけなよ」
「俺、持てない神だと思われるの嫌だから俺の彼女を見せてやるよ。そ
ことあそこと、そっちにもいる。どうだいどの子も可愛いくて綺麗 だ
ろ」
神様が指さす方を見ると、草原に黄色い服を着た小さな可愛い女の子
達が輪になって座り、後ろには白いドレスのすらりとした妖艶な女性
が立っている。その脇には着流しの青い浴衣のような物を着た髪の長
い女がやや青ざめた頬で良太を見てにこりと笑った。良太はぞくっと
した。
「これ、みんな神様の彼女?」
「そうだよ。俺、持てるだろ」
「すごいや。この中の誰と結婚するの?」
「結婚なんかしないよ俺神様だもん。結婚なんて下等動物のすること
だから。そもそもお前さんは神様の生活ってもの知らないんだろ」
「どんな生活してるの」
「それじゃ教えてやるけど、俺はあんたらみたいに物は食わないし糞も
しない。知らない間に親爺の口から飛び出し百億年くらい生きて、知ら
ない間にいなくなる。その間に銀河を台にして星の球でビリヤードをし
て遊んだり、退屈しのぎに鼻くそを丸めて惑星を作って飛ばしたりつ
ぶしたりして人間の三百年を一日で過ごす。あんたらみたいにあくせ
く食い物を探したり彼女を物色したり、そのあげくこそこそ浮気した
りしてどうでもいいもめ事を起こしたりしない。俺から見れば人間て
のは馬鹿なことをしてるって思うよ」
「神様って暇なんだねえ。何か趣味でも見つけなよ」
「だから趣味は鼻くそ飛ばしさ」
「汚いなあ。もっとみんなが感心するような高尚な趣味は無いの」
「みんなって誰だい」
「他の神様だよ」
「地球上に神様は俺と従兄弟しかいないよ。人間共は俺のことをいろ
いろな名前で呼んでるけど。如来とかヤーウェとかブラフマンとか、
アッラーとも言ってる。まあ、どう呼ばれたって、どうせ返事しない
けど」
「でも今日は木の下でつまらなそうにしていたじゃない」
「そうなんだ。この彼女たちにも飽きてきてさあ」
良太は綺麗な女達をもう一度見回すと、小さな黄色い女の子達はタン
ポポになり、青ざめた美女はヤナギの木になった。妖艶な白い女性は
純白の花桃の木になって立っていた。
「俺、少し憂鬱なんだ」神様がぽつりと言った。
「神様も憂鬱になるの?」神様は黙って良太を見つめた。
「僕にできることあったら言ってよ」
「人間に勇気づけられるようじゃ神様もおしまいだな」
「そんなことないよ。人間と神様は持ちつ持たれつの関係じゃないの」
「そうかなあ。それじゃ頼んじゃおうかなあ。俺、しばらく榊の木に
なって休みたいから、人間の声の聞こえない所に挿し木してくれない
か」
そう言って一本の榊の小枝になった。
「お安いご用だよ。その代わり僕にもお返しが欲しいな。だって持ち
つ持たれつだから」
「何が欲しいんだい」榊の枝の先から声がした。
「今日これから宝くじを百枚買ってくるから、当たるようにして欲しい
んだ」
「ああいいよ。簡単なことじゃないか」
良太が目を覚ますと枕元に一本の木の枝が落ちていた。良太はそれを
裏山の静かな場所に挿し木した。
その日もらったアルバイト料で良太は宝くじを百枚買った。
一月後、宝くじは十枚も当たった。但しどれも当選金三百円の末当だ
った。癪に障り良太は裏山に行き一月前に挿した苗を探し出し文句を言
おうとすると、小枝は枯れていた。
「そう言えばただ当ててと言っただけで六億円の当選って言わなかった
なあ」
呟くと今度は良太が憂鬱になって空を見上げた


