五十年

高安義郎

わたし決して別れないとあの時言ったね

飽きたら分からんと俺は言った

別れるとしたらあなたが原因

おまえに失望することだって  

あり得るだろう

そんな会話の戯れを

俺たちは妙に記憶しているね

 

「あなたのせいだわ」

俺が何をしたというのだろう

「あなたがいい人過ぎるから」

それは幸せだと言う裏返しだろう

「あなたは私を知りすぎてるわ」

知ったからこそ暮らせたはずだ

 

「自由すぎて不自由だったわ」

それは我が儘というものだ

「そういう訳だから別れましょ」
いったいどんな 訳だというのだ

「昔のあなたが迎えに来てるの」

「そういう訳なら行くしかないか」
送り出したその後で

意味不明なことに気がついた

 

その日の朝の置き手紙には

『私は昔のままなのに』

走り書きが目にとまる

『俺も昔とかわらないはず』

そんな返事を書いた後

やっと話の意味が分かりかけ

それにしても五十年

本当に変わらなかったのだろうか