夜の雪は
漆黒の過去の欠片か
重苦しい無音の中から
遠い昔の音が聞こえる
下駄の音が響きだし
風に格子戸がきしみ
駅で嗚咽(おえつ)する人の顔が蘇る
黒ずむ雪は
街灯の下で白さに気付き
思い出に色を差す
駆け巡った社の藁屋根(わらやね)
石灯篭の揺れる火影
竈(かまど)にくすぶる
燠(おき)の温もり
夜明けて常磐木の
葉の潔く
母の前掛け柿渋の色
雪は冷たいから懐かしい
幼子の冷えた両手を
暖かい母の手が包み
父の転がす雪だるまの
口ひげの恥ずかしかった思い出が笑う
遠い時間の闇の中から
今日の雪は
ただひたすら昔が降り積む