詩集「宇宙」

広がり病む星

高安義郎


 

温かい液に満ちた島宇宙に包まれ

限りない夢を見始めようとした頃から

たとえ星間物質の一粒に足りなくとも

僕はあなたひとりの宇宙でありえた

そして僕は

太陽が燃えていることよりも

さらに確かな焦点をあなたに結び

森羅万象はちいさな風ぐるまのなかにあった


指さすだけで満ち足りた夢の方角をそれて

自由に眼が動き始めた時

巡り会ったバラ星雲の赤の喜悦に

懐かしい空間を遠く忘れ始めた

そしてその喜びの重さだけ

忘れない思い出が背につらく残った


つらいのは離れてしまった岸からの声

赤い星雲の雫の酔いか

すでに島宇宙の羊水は枯れ

あの時指し示した星の光はどこにも無い

母よ それからのあなたは

何を見つめようとして夜空を見上げるのか

枯渇した淋しさだけが広がってゆく