夜半の風

高安義郎


夜半から吹き出した風は

賤が屋(しずがや)を揺らし

時おり襲いかかる雨足が

屋根を打つ

目をつぶると微かに

過ぎ去った春の香りが漂う

 

私はこの風の中で

何をかをやり過ごそうとしていた

君は何も思わずに

明日のために眠ったろうか

春を食うために君と

よもぎを摘んだは

いつのことだったろう

 

風が遠い記憶を連れ戻した

風音の合間に聞こえるのは

君の寝息か

この風がすべての時間を

吹き飛ばしたら

私は何から解放されるのだろうか

君の寝息は

なんとあどけないことだろう

君は君自身への疑問など

持たずに眠れ