夢の中の神様 その一

                    「親しくなった神様」        高安義郎                  


 
    




 神様に出会った夢を見た。良太は神様を初めて見たが青年の神様だった。

「おいくつですか」と聞くと二十歳だという。

「僕と同い年ですね」と言うと、

「人間の歳にすると二百万歳だ」と言って笑った。

「神様はこれまで何回も僕の願いを叶えて下さいましたよね」と言うと、

「人の願い事など叶えたことなんかないよ。偶然思い通りになったのを勝手に俺のお陰と

思い込んでるだけでしょ」

と言って落ちているジュースの空き缶を拾った。

「汚いですよ」と言うと、

「どうして?」と言う。

「だって、どんなばい菌がついているか分からないじゃないですか」

「ばい菌がなんなの。君もばい菌も同じ生き物だろ。それじゃ君も汚いのかい」

そう言って空き缶を口に当てた。ジュースらしい液体が流れるのが見えた。

「神様も喉が渇くんですね」

良太は冷やかすように言った。すると、

「そうじゃないさ。時間を戻してみただけさ」

「それじゃ飲んだのではなくて吐き出したの?」

「吐き出したんじゃない。缶の時間を逆戻しさせたのさ。だからほら蓋も閉まっただろ」

「なぜそんな事をするの?」

「別に、何て事はないさ。君たちがやっているのと同じ暇つぶしさ」

「僕は暇つぶしなんかしてないけど」

「してるよ。昨日は映画を見てたし、今日は今日で女の子、美佐ちゃんとか言ってたね。そ

の子とぶらぶら歩いて喫茶店でおしゃべりして、寝る前に本を眺めて暇つぶしをしてただ

ろ」

「あれは勉強だよ。僕の大学は一科目でも赤点があると落第するから」

「そもそも大学ってのが暇つぶしの所じゃないか」良太は少しむっとした。

「あなた本当に神様ですか?」

「あのね、その丁寧語、やめてくれないかな。こそばゆいよ」

「じゃ、ため口効くけど、僕の大学受験の時合格させてくれたのはどうしてさ」

「あんたが合格したのは大学側の気まぐれで俺のせいじゃないさ。だいたい人間の暇つぶ

しの手伝いなんかするわけないじゃん」

「それじゃ聞くけど、神様は何のために居るの」

「変なことを言うねえ。それじゃ人間のあんたは何のために居るのさ」

「何の為って事はないけど、両親が子供が欲しいと思ったから神様が授けてくれたんでし

ょ」

「だからさあ、その神様が授けたとか願いを叶えたとかやめてくれないかなあ。俺、人間の

為にいるわけじゃないし」

「じゃなんでいるのさ」

「君と同じさ。別に意味なんかないよ」

「それじゃ今まで僕たちは神社やお寺で手を合わせてお願いしたりしたのは何だったの

さ」

「知らないよ。そんなこと。君らの勝手な思い込みがそうさせているだけだろ」

「じゃ神様なんていなくたっていいじゃないか」

「そうだよ。人間なんかがこの世にいなくたっていいのと同じさ」

「何だか変な神様に会っちゃったなあ」

「そりゃどうもおあいにく様。きっと美佐ちゃんと出会ったのと同じさ」

「とんでもない。彼女とは大学を出たら結婚する運命の人さ。彼女といると気持ちが落ちつ

くんだ」

「気持ちが落ちつくんなら神様と同じじゃないか」

「全然違うさ」

「違わないね。彼女がいなけりゃ別の彼女を見つけただろうし、俺がいなけりゃお寺とか教

会とかで手を合わせるだろ」

「もういいよ。あんたみたいな神様と話をしたくない」

「おや嫌われたみたい。嫌われるのは寂しいから、何なら一つ君の為に何かしてやろうか」

「試験問題でも教えてくれるってのかい」

「そんな事を知りたいの?いいよ。君が夕べ読んでいた次の頁の英文がそっくり出るよ。そ

れじゃまた会おうね」

そう言って神様が消えると良太は目をさました。良太は神様が友達のような親しいものに

感じた。その事を美佐に話すと美佐は、

「あら英語の先生が、その頁から出すって授業の時言ってたじゃない」と言って笑った。

 だが試験にはその頁は出なかった。先生が頁を間違えたというのだ。美佐は怒って先生に

文句を言いに行ったが、神様も間違えるのだと思うと良太は夢の中の変な神様に親しみを

感じるのだった。