詩集「クラケコッコア」

皿だった私

高安義郎




ある時のおまえはきなこ餅だった

むせそうなきなこをはたくと

おまえは恥かしがって

一口で食べて と言った

腰の強い餅で頬が弾んだ


あの日のおまえは杏だった

腕でこすると真っ赤になり

ふと私は禁断の実を思った

種も飲み込んで と

おまえは悪戯ぽく言った

無理に飲み込んだ種はいつまでも

胸につかえていたものだった


いつかのおまえは

木に一つ残って熟した柿の実だった

届きそうにない私の頭上に

言葉を重ねた木の葉を落とした

ヒヨドリが来てはつついて

あの風の日に落ちてきたおまえには

もう食べるところなどなかった


私は一枚の小皿になった

皮をそがれて真っ白な

りんごが四つに分けられていた

食うことも食われることもないままで

りんごは鉄錆の色に変色していった

皿の私はそうして黙って

四分の一のおまえを載せていた