高安義郎
空腹だったのか
俺の愛する猫ポプラは
今朝新聞紙を食っていた
雷に打たれた釣り人の記事を嘗(な)め
政治家の賄賂の記事をひとりした
原発事故はおしるし程度に爪を掛け
いじめを苦にした中学生の自殺では
いじめた奴より学校を悪者にして一件落着
そんな記事を
何度も噛(か)んで飲み込んだ
そんなに旨いのかと聞けば
美食を自認する愛するポプラは
目を細めてうなずいた
三面記事は煮干し味
スポーツ記事は鰹節
趣味コーナーはサラダの味で
さしずめ御用新聞は
歳暮に届いたイワシとサンマの
缶詰に似てるとポプラは言う
食った後は
屋根に登って居眠りタイムだ
夕方のこと
ポプラはぐったりすり寄ってきた
ひと目で具合の悪さが分かる
新聞紙などを食うからだ
猫らしく
キャットフードを食っていればよいものを
説教したが瀕死の体だ
新聞の食あたりなら新聞社に行こう
編集長はポプラの細い目を見つめ
―新聞を まともに食っちゃ いかんでしょ
いきなり俳句を詠んだのだ
何故俳句かと聞けば
詩では便秘になってしまうだろうと
のたまった
帰りがけに編集長は呟いた
「そもそも新聞なるものは
社会がひり出す排泄物だよ」
してみるとポプラは汚物を
まともに食ってしまったのだった
病気になるのも無理はない
愛しいポプラよ
明日からは
俺のこの詩の原稿用紙を
少し囓ってみるといい
意外に便通が良くなるかも知れないからな