お喋り蝉

高安義郎

ジジイ ジジイとアブラゼミが俺を呼ぶ

お前にジジイと言われたくない

と言うと小便を掛けて行った

 

ヒグラシゼミは

オーシン ツクツク ツクズク オシイ

と俺の来し方をしきりに勿体ながる

大きなお世話だと言うと

モウチョットダッタ モウチョットダッタ ゼー

とため息をつくのだ

 

ミーン ミーン ミーンナ来い と

ミンミンゼミガ演説するのか仲間を呼ぶが

こんな真夏に誰も集まってなど来はしない

 

最近クマゼミがこの辺りに住みだして

シェシェシェ シェシェシェと唾を飛ばす

汚がって誰も寄りつきもしない

お前は新参者だ

も少し遠慮と言うものを知れ

そうこうする間にカナカナゼミがやって来て

 短くも 長くも見える 夏の夜の

   数えあぐねる 億の星カナ カナ カナ カナ 

と短歌を詠んだ

 

老人文学だなと冷やかすと

カナカナゼミめは怒りだし

「お前のぼやきは俺の愚作にさえ及ぶまい」

そんな捨て台詞の残し一層大声を出した

 

そんなことがあった今年の夏も

何もないまま過ぎ去ろうとしていた