青空に数千頭の蝶が舞う

榎木(えのき)の古木を囲った庭から

私のオオムラサキが飛び立った

数万もの卵から

生き残ってきた数千の蝶


お前達は榎木の精だ

榎木が森の申し子ならば

お前は森の分身だ

空を紫色に染め

森が四方に拡散して行く


一頭が私の肩に止まった

何をか話しかけるのか

耳を澄ませば

首筋を流れる汗に吻
(ふん)を伸ばした

すると私の意識は蝶の背に乗り

大空に舞い上がる

積雲の近くから地上の広さに驚嘆しながら

私は地上のどこで生を受けたかを探す

榎木の囲いが小さな点になって見える

私は地上の一点から生まれ出たのか


私は私がわたしであることを考えた

私は地上の一つの点であったのだ

わたしとは大地に潜んだ無限の意識の

その中の一つだったのではないのだろうか

偶然解き放たれて自分を思った

オオムラサキの乱舞の中で

私はそんな事を感じたのだった



          
  
オオムラサキ

高安義郎