詩集「次元鏡

息子達に
永い間私の細胞でいたお前達よ

せっかく薄明るい光の中に目を開けたのだから     

時と場所のこの巡り合わせに感謝しながら

いつか聞いてくれるがいい


私は財布は持っていないから

出来合いの喜びは買ってやれない

だからその手で握れるスコップとトロッコと    

生まれた時にあげたはずの

ダイナマイトの扱い方と

鉱脈を読む相談相手になってあげよう


巨大なあの悲しみがお前に見えてしまうまで

知ることへの我儘な山道を行くがいい

白金の鉱山に立っている喜びを

感じ取ってほしいと思う

愉快な発破と充実したトロッコの明け暮れの中で

神の世界が信じられたら信じるといい

信じきれなかった父さんは

ことによると不幸者なのかも知れない

いつだったかお前達が欲しがったあの

プラチナブルーのモルフォーの薄羽根が

天国の窓だったかもしれない


今更になって父さんは

幽霊や妖怪がこの世のどこかに

本当にいて欲しいと願ったりする

でもそんなもののいる気配さえ感じない

だからこの短い刻みの連続を

喜びの中で生きていって欲しいと思う

できる限り手を先に出し

不穏な空気を断ち切りながら

巨大な悲しみの終焉まで

その喜びを

お前達の細胞の中にも

続け通して欲しいと思う



                   
            

高安義郎