高安義郎
霧雨の立ちこめる交差点に立つと
赤い傘の少女が目に浮かんだ
彼女の傘には柄がなかった
足元の水たまりに赤い影が反射する
青い傘の少年が
重たそうな雲を見上げた
雨はやはり天から降るんだ
そんな事を呟(つぶ)きながら
青ざめた顔が水たまりに映った
黒い傘の人々が行き交う
傘のない男が立ち止まり
初老の女に話しかけた
男は女の傘をもぎ取り
水たまりを飛び越えて走り去った
雨が上がると
足早に車道を歩いてきた男を
街路樹の下にたたずむ女が
静かに呼び止めた
水たまりに写る残照が眩(まぶ)しい
あの眩しさは錯覚だったろうか
止んでいた雨がまた降りだし
僕は旅の鞄に傘を探した
記憶の中から降ってくる雨は
濡れるしかないのかも知れない
僕は骨のない傘を手にし