


太郎、次郎、三郎の兄弟は珍しい一卵性の三つ子だった。したがって
三人はそっくりな顔をしていた。どんなに似ていても子どもの頃はさほ
ど気にはならなかったが、中学を卒業する頃になると、趣味や普段の習
慣がそっくりで成績まで同じなのが気になり始めた。入学した高校も同
じだった。
「お前達二人はどうしてこの高校にしたんだ」
太郎が聞くと、
「だって、あの高校には沢山の部活動があるからさ」
次郎と三郎は同時に答えた。太郎がその高校を選んだのも同じ思いから
だった。
「それじゃ、俺たち別々の部活動を選ぼうぜ。いつまでも同じじゃ個性
がなさ過ぎる。お互い少しずつ変わっていこう」
「俺もそれを考えてたんだ」
「俺もだ」
またしても三人の考えは同じだった。三人は多趣味の兄弟だったが、そ
れぞれ三種類の部活を書き出すことにした。明けてみると三人が三人とも
、
順位こそ違うが『水泳・サッカー・陸上』の三つだった。
一番入りたい順に書き直してみると、『サッカー』『陸上』『水泳』の順
は同じだった。仕方なく三人はくじ引きで決めることにした。その結果
太郎は水泳、次郎は陸上、三郎がサッカーになった。三人がそれぞれの
部活で半年が過ぎた頃だった。ふと三人はくじ引きで外れた方の部活が
気になりだし、半ば冗談で、
「こっそり入れ替わろうか」
と持ちかけたこともあった。
丁度そんな頃、太郎の部活『水泳』が基礎体力作りの期間が過ぎプール
に水を張るようになると、水着姿の女子部員が気になりだした。一学
年上の女子『惠梨』のプロポーションの美しさに太郎はすっかり心が奪
われてしまった。同じ頃、次郎は陸上部の先輩で三年ほど前、国体で優
勝した走り幅跳びの選手、高田先輩が母校を尋ねてきたことがあった。
その先輩は高跳びでも注目を集め、オリンピックの教科合宿に参加する
らしかった。その先輩が次郎の走りっぷりを褒(ほ)めてくれたのだ。
次郎には高田先輩が雲上人に様に思え、高田の在籍する体育大学に進学
しようと心に決めた。
三郎は毎日サッカーボールを追いかけていた。サッカー部の顧問は数
学の教員だったが、この先生の趣味は絵を描くことだった。時折スケッ
チを見せながら、
「どうだね、この生徒の躍動的な姿」
と自慢げに話した。三郎はいつの間にかこの顧問のスケッチが好きにな
った。顧問は美術の先生と同郷で仲が良かった。時折美術室で談笑して
いる姿を見たことがある。そんなことから三郎も美術に興味を持ち始め、
半ば悪戯で画いた秋の田園風景のイラストを美術の先生に見せた。する
と先生は
「君は特徴のつかみ方がユニークだね。デザイン関係に進んだら成功す
るかも知れない」
軽い気持ちで言ったのだった。
三郎はサッカーをやめ美術部に入部した。高校の三年間は瞬く間に過ぎ
た。進学先を考えるにあたり兄弟三人は顔をそろえた。
「また同じ大学を選ぶと面倒だから、次郎の希望から話してみろよ」
太郎が言った。
「おれ、高木先輩の居る体育大学で陸上をやりたいんだ。太郎はどうな
んだ」
「俺はな、実は文系に行こうと思ってるんだ」
「それってさあ、彼女の影響だろ。俺、知ってるぜ。惠梨先輩の行
った江南大学だろ。よっ、色男」
次郎は冷やかした。
「そんなんじゃねえよ。ちょっとばかり英語が出来るから英文学をやっ
てみたくなっただけだよ。それより三郎はどうなんだ」
「俺かい、おれ、デザインの専門学校に行こうかと思ってるんだ」
すると三人は、
「何で三人気が合ってたのにこんなに違ったんだろ」
異口同音に発した。
「遺伝子が同じでも、環境によってこんなに変わるのかなあ」
太郎が呟いた。
「つまり遺伝子が人間を作るわけじゃねえって事なんだな」
次郎が言った。
「俺、細胞の一つ一つが個性だと思ってたけど違うみたいだね」
次郎が呟くと母親の声がした。
「部屋の掃除は終わったの」
その声に三人は
「分かってるよ、すぐやるから」
三人は全く同じ台詞を異口同音に発し、ハモった声に苦笑するのだ
った。
