高安義郎
数年前より玄関の庇(ひさし)の隙間に雀が巣を掛けました
糞の筋が梁(はり)を汚しておりました
人が近づくと小雀は鳴き止むのです
息を凝らしているらしい緊張を感じます
親鳥は電線に留まったまま素知らぬ振りをし
誰もいなくなると滑り込んで来るのでした
追い出そうとすると母は言ったものでした
「この家を造った材は
雀の宿だったのかも知れない
雀はたかだか家宅侵入に過ぎないけれど
人間の方が
罪はずっと重いんじゃないのかい」
そんな話しを思い出しておりました
今年も雀の子が孵(かえ)ったようです
姿は見えませんが声は四羽か
でも今年は母はいません
ここが我が家であることも忘れ
育ててきた草木の名前も忘れた母は
おそらく雀の記憶もないでしょう
僕が玄関先に立ちますと
かまびすしい小雀の声は
鈴を飲み込んでしまったように黙ります
息を殺し顔を赤らめているのだと思うと
可笑しさが込み上げます
今年ついた梁の新しい模様を見ると
「いいじゃないか 家をかじるわけじゃなし」
母の言葉が聞こえたようでした
この小雀たちは
母の思いが育てているのだ
そんな気さえしてくるのでした