山の中の池は寡黙(かもく)だった
季節の疲れを川底に残し
イワナもカジカも
夢の彼方へ帰っていった
僕は池の中の木立を見ていた
そこには別の世界の空があった
二つの空の間から
誰かがささやいたようだった
それは
岩を打つさざ波だった
昨日までの喧噪は
なんだったのだろうか
いきなり青いつぶてが
川面に突き刺ささり
苔むした岩肌に跳ね返った
もがく小魚が消える
―あれがカワセミだよ
もう一人の僕が言った
あの翡翠色の美しさは
池を食っているからだろうか
静けさが舞い戻ると
さざ波が
小声で話しかけてきた
―もう夏は終わるよ
