詩集「宇宙」
高安義郎
一枚の天幕に散在するガラス片
河のほとりの芝居小屋
それは変わることのない安堵であったか
過酷なまでの速さで
総てか薄れてゆくのを知った今
科学するとは天を遠ざけることに思える
一枚の皮膜に包まれた意識を想えば
信ずるだけで幾度も生まれ変われた私か
たった一度の脳波の静比で輪廻か止むなら
死するとは科学の産物なのではないか
宇宙は砕け散ったクリスタルの壷だ
そこに形こそ定かではないが私があった
それは今でも間違いのないことなのに
後にも先にもこれが一度きりの私だとは
ぶよぶよの天幕に散在するガラス片よ
せめて私を宇宙の合成物と呼ばないでほしい
膨脹の極限に行き着かぬ間に総てを閉じ
私にだけでも宇宙を平安に戻せ
そんな芸当が出来ないというのなら
科学するとは
命の身ぐるみを剥(は)ぐ好奇心に過ぎないではないか