『詩集 千億の銀河』
一億年前

高安義郎


わたしはどこから生じたものか

いつからわたしは わたしになったか

記憶を脳に詰め込むことで

自分が形成されるのならば

確かに君はそしてあなたは

そうして人になったのだろう

確かにわたし以外の人を

それで私は納得できる

だがどうして私がわたしであるのか

それがただただ不思議でならない

他人からは確かに私も他人の一人

だが何ゆえに私がわたしか

やはり不思議としか言いようがない

 

自分自身というものが

単に記憶の産物ならば

私と同じ記憶を持った人がいたなら

私は二人になるのだろうか

否 否 わたしは

私だけしか知らないでいる

莫大な数の命がある中で

なぜ私が首尾良くわたしとして存在できたか

 

卵子と精子が合体し

たまたま出来た唯一の細胞

あるいはデオキシリボ核酸が

個人を特定するのなら

一卵性双生児は同体だろうか

 

私はいつからわたしになったか

虚空の中に浮遊していたわたしの意識が

たまたまこの肉体に入り込んだというのなら

転生は起こりうることになる

では嘗(かつ)てわたしはどんな生命体で

地上の

宇宙の

どこに浮遊していたものか

 

一億年前の地上で

わたしは空飛ぶプティラノドンか

だが私には

ウサギを捕って食った記憶などはない

記憶がなければ

それは当然私ではない

一億年前やはりわたしは

生きてこの世にいたわけではない

 

                                    デオキシリボ核酸= (DNA)