高安義郎
かつて思い描いた大河はどこか
鬱蒼(うっそう)と草が茂り
堤防らしい土手にたどり着いたが
向こう岸が見えない
見えないからこそ彼岸なのだと
方角を間違えているらしいことにも
気づかずに納得する俺がいた
この此岸のむこうには
何があるのか
九十九谷の入り口か
曼荼羅華の花園か
様々に人は想う
だからこそ彼岸なのだと
したり顔の御仁はうそぶいた
草を分け入って進むと
どうやら水の流れた跡を見た
背伸びして眺めれば
遙か向こうに
川岸らしい丘が見える
あまりに遠く
景色は霞んで遙かな世界
ここに橋があったなら
ふと そんなことを思った
俺は橋を探した
探し続け
探し探して
気がつけば
七十年程の月日が海に流れ出ていた
俺は一本の杭になった
見渡せば
そこかしこに杭が立つ
そうかおれ達は
橋になるための
杭だったのだ
いつの日か
誰ぞの渡る橋のための
俺はか細い杭だと気づいた
そんな錯覚に今はただ
静かに喜ぼうと