箒星ひいふうみい
                     

               夜空に明るく龍の眼の

               箒星が長く飛んでいたその昔

               村の名主に てまと言う名の娘がひとり

               蝶の花の光に照って蚕にくるまり

               日傘の下でお天道様の

               赤く怒る顔も知らずに大きくなった


               てまが八つの夏の日暮れの木陰では

               鞠をついて唄うてまの声は涼しく

               蝉の時雨もひと時止んだ

               ひい ふう みい よう

               突いて いつ むう

               唄って なな やあ

               聞かせて ここ とう

               木洩れ日は白い頬を無心に透かした


               鞠つきは ある時てまに面白遊びをひとつ教えた

               夏の光の照る中で

               蟻の行列をトントト はじいて踏み遊ぶ

               来る日も来る日も唄ってはじいた

               蝉の時雨もひと時止んだ

               ひい ふう みい よう 

               蟻の道は曲がって途切れ

               いつ むう なな やあ 

               ゴマ粒は踏まれて撒かれて逃げ惑う

               てまは可愛く笑って ここ とう


               幾百か突いてきょうの日が暮れて

               その夜に起きた空の異変は

               龍の目の光るかけらが鞠の色で降った雨

               てまの屋敷に ひい ふう みい

               箒星は屋根に落ちて やあ ここ とう

               流れ星が手毬になって美しく

               鞠を抱いて子蟻のようにてまは震えて
 
               ひい ふう みい


               箒星が降ったと言われるむかしのむかし

               いつ むう なな やあ

               この穴ぼこの原っぱに

               村がまだあった頃のむかしのはなし




                     
    
(作曲家 中西 覚氏により歌曲となる)