

お母さんはおばあちゃんのお見まいに、きのうから出かけていてるすでした。
あしたにならないと帰ってきません。お父さんは夕ご飯のハンバーグを作って
います。スズハはそれを見ています。やかんの口からはゆげがゆらゆらとのぼ
り、天井にとどきそうです
。
「スズハのお母さんは、ママだよね」
スズハは少しさびしくなって聞きました。
「そうだよ。もうじきハンバーグ、できるからね」
お父さんが言いました。スズハはテーブルの上に置いてあった地球儀(ちきゅ
うぎ)をつまらなそうに回しました。
「地球のお母さんはだれなのかなあ」
つぶやくようにお父さんに聞きました。
「地球のお母さんは太陽だよ。そらできた」
お父さんはハンバーグをお皿にのせました。
「太陽はどうしてできたのかなあ」
またスズハは聞きました。
「宇宙にあったガスがより集まってできたんだ。じゃ、いただきますしよう」
「いただきまあす」
「たくさん食べるんだぞ。サラダもあるよ。コーンスープもあたためたからね」
お父さんがしきりにすすめます。でもスズハはあまり食べたくありませんでし
た。

やっとハンバーグにはしをつけたとき、やかんのお湯がふっとうしました。
「にたってるよパパ」
そう言ったとき、ハンバーグのソースがとんでスープの真ん中に落ちました。
ソースは星のように見えました。
「パパ、見てみて。なんだかきれい」
「本当だ、太陽がうまれる時ってこんな感じかなあ」
お父さんの言葉にスズハは目をかがかせました。
「太陽はどうやって生まれたのパパ。宇宙にはスープがあるの」
「スープはないよ。ちょっと待ってね、やかんの火をけすから」
そう言って立ち上がったお父さんは火を止めずに言いました。
「見てごらん、宇宙にはこの湯気みたいにガスが寄り集まっていたんだよ。ゆ
げは広がってゆくけれど、たくさんのゆげがたちこめると、ゆげの真ん中では
あつくなるんだ」
「おしくらまんじゅうだね」
「そう、そのおしくらまんじゅうも、真ん中あたりで爆発(ばくはつ)をした
んだよ」
「爆発(ばくはつ)したらみんな飛んでいっちゃうの」
「いいや、ちょうどスズハのスープのおさらみたいに、真ん中だけが熱くなっ
て周りのガスを吸いよせるんだ」
「どんなふうに吸いよせるの」
「静かにスープを周りから飲んでごらん」
そう言われてスズハは、スプーンでしずかにスープをすくってのみました。
「ほら、真ん中のソースだけがのこったろ。こんなふうに周(まわ)りのガス
は真ん中に吸いよせられて、真ん中だけが真っ赤にもえたんだ」
「これがパパ、太陽のはじまりだったの」
「そうなんだ。次は地球はどうしてできたかなんだよね」
そう言いながらお父さんはやかんのお湯を、ポットに移しかえました。
またスズハははしを置いて、何もたべません。お父さんは大きなおさらをと
りだすと、真ん中にトマトをひとつおきました。
「トマトはできたての太陽だよ。太陽は燃えながらガスをちらばしはじめたん
だ」
そう言って、トマトの周(まわ)りに細かくちぎったサラダの野菜のレタスや
パセリを広げました。
「太陽の周りはごみだらけになっちゃった。このごみが地球の元になったんだ」
「どこに地球ができてくるの」
「この野菜があつまるんだ。少し多いからドレッシングをかけて食べちゃおう
よ」
「うん、食べちゃおう」
スズハはトマトの周りの野菜を全部食べてしまいました。
「地球はどこにできてるのパパ」
「えらかったね。スズハ。太陽の周りがきれいになって分かりやすくなったか
ら教えよう。太陽からずっとはなれた所にね、石や水や黒こげになったものが
まだ散らばっていたんだよ」
お父さんはそう言ってハンバーグをバラバラにしたのでした。
「このバラバラがどうなるの」
「バラバラの真っ黒は、お互いにより集まっていったんだ。その中で一番大き
なかたまりが、まわりの小さな黒こげをぱくりぱくり食べはじめたの。スズハ
も食べてみるとわかるけど」
「うん、食べる」
細かくちぎったハンバーグを、スズハは口の中にほおばりました。
「おいしかったろ。地球もできたてはきっとおいしかったかも知れないね」
「地球もおいしかったよ。きっと」
スズハはハンバーグをまるまる一個食べました。
「雲のない地球になるといけないな。雲のつもりでご飯も食べようか」
お父さんの言葉にスズハは笑顔でうなづきました。
「ご飯だけだと食べづらいから、ちいちゃなおにぎりにしてやろうな」
「うん、おにぎりがいい。のりもつけてね」
お父さんは手をあらいなおすと、小さなおにぎりをむすびました。お父さんの
おにぎりは三角ではありませんでした。
「パパのおにぎりはどうして丸いの。でも、このおにぎり地球みたい。のりが
海みたい」
スズハはおにぎりを地球儀の横に持っていってながめました。
「でもどうして地球は丸くなったのかなあ」
「そのひみつは、食器洗いの時に話してあげる。だから、早く食べちゃいな」
「わかった。食べたら教えてよ」
スズハはネコの子のように、おにぎりを見つめると北極の方からかぶりつきま
した。
「食べたよ。パパ。どうして地球が丸いの」
「よし、お皿をあらうぞ。洗剤(せんざい)をつけて」
とお父さんは洗剤を泡立てました。そして、ストローを取り出すとシャボン玉
を一つ作って飛ばしたのでした。

「しゃぼん玉だ。地球儀みたいにまんまるだ」
「そうなんだよ。できたての地球はスズハのおなかに入ったハンバーグみたい
に、どろどろにとけていたんだ。とけていた地球は、宇宙にうかんだままだか
ら、シャボン玉と同じで丸くなったんだ」
「地球は宇宙のシャボン玉なのね」
「そうだね、これで地球のお母さんがわかったね。あとはお風呂にはいって寝
るだけだ」
お父さんはほっとしたように言いました。
その時でした、玄関のチャイムが鳴って、お母さんが帰ってきたのです。
「おばあちゃんのぐあい、思ったより軽かったの。スズハはご飯食べたかしら」
そう言ってスズハを抱き上げました。
「今日スズハはね、地球を食べたんだよ」
そう言って、お母さんに抱きついてゆきました。
「だからスズハは地球なんだよ、ねえパパ」
「そうだね、やっぱりママはスズハの太陽なんだなあ」

