夏が終わっていく早さに
高台のベンチが
はじの方から溶けはじめたのです
岩のすき間に浮く遠い地で
男と女のいるボートに気づきながら
ベンチは僕達を抱いて
夕日から離れていったのです
目玉だけの虫のように
ひぐらしが僕等の耳から
谷間の方に落ちました
つかまえに行った僕等の眼が
そえ木のいたいたしい
古い梅の木の下をくぐって
やがて淋しそうに帰ってきました
海を越えるのが不安だったのです
アキビンが一本だけ
僕等の口のように捨てられていました
この高台に来る時は
殉教者のように
杉林の中を来たのですが
階段のある道を帰りたいと思いました
小さくなっていくベンチに
コウロギが飛びついてきた時
僕等は冬の皿のように悲しくなって
ひぐらしを真似て鳴いていました
高台のベンチというベンチが
小さな岩になってしまった頃
僕等は意味のない指切りを
長いあいだしていました